第1章 オーバークラウドの IPv6 の概要

Red Hat OpenStack Platform director は、オーバークラウドと呼ばれるクラウド環境を作成します。デフォルトでは、オーバークラウドは、インターネットプロトコルバージョン 4 (IPv4) を使用してサービスのエンドポイントを設定します。ただし、オーバークラウドはインターネットプロトコルバージョン 6 (IPv6) のエンドポイントもサポートします。これは、IPv6 のインフラストラクチャーをサポートする組織には便利です。

本ガイドは、director のインストールと使用方法 の補足情報を提供します。本ガイドでは director のインストールと使用方法 と同じ要件が適用されます。必要に応じて、これらの要件を実装してください。

1.1. IPv6 ネットワークの概要

IPv6 は、最新バージョンのインターネットプロトコルです。Internet Engineering Task Force (IETF) は、現在の共通 IPv4 規格における IP アドレスの枯渇という問題に対応するために IPv6 を開発しました。IPv6 には、次のような IPv4 との違いがあります。

大規模な IP アドレス範囲
IPv6 範囲は IPv4 範囲よりもはるかに大きくなります。
エンドツーエンドの接続性の改善
IP 範囲が広くなるとネットワークアドレス変換への依存度が低くなるため、エンドツーエンドの接続性が向上します。
ブロードキャスト非対応
IPv6 は従来の IP ブロードキャストに対応していません。代わりに、IPv6 ではマルチキャストを使用して、階層的な方法で適切なホストにパケットを送信します。
ステートレスアドレス自動設定 (SLAAC)
IPv6 には、IP アドレスを自動設定し、ネットワーク上の重複するアドレスを検出する機能があります。これにより、アドレスを割り当てる際の DHCP サーバーへの依存が軽減されます。

IPv6 は 128 ビット (16 ビットのグループを使用する 4 進数で表現) を使用してアドレスを定義します。一方、IPv4 は 32 ビット (グループの 8 ビットを使用した 10 進数の数字で表現) を使用します。たとえば、IPv4 アドレス (192.168.0.1) 表現は以下のようになります。

Bits表現

11000000

192

10101000

168

00000000

0

00000001

1

IPv6 アドレス (2001:db8:88ec:9fb3::1) の場合、表現は以下のようになります。

Bits表現

0010 0000 0000 0001

2001

0000 1101 1011 1000

0db8

1000 1000 1110 1100

88ec

1001 1111 1011 0011

9fb3

0000 0000 0000 0000

0000

0000 0000 0000 0000

0000

0000 0000 0000 0000

0000

0000 0000 0000 0001

0001

各ビットグループの先頭の 0 なしで IPv6 アドレスを表現したり、各 IP アドレスの 0 のビットグループをすべて省略したりすることも可能です。この例では、0db8 ビットグループを db8 と表現し、0000 ビットグループ 3 個を省略して、2001:0db8:88ec:9fb3:0000:0000:0000:00012001:db8:88ec:9fb3::1 に短縮できます。詳細は RFC 5952: A Recommendation for IPv6 Address Text Representation を参照してください。

IPv6 でのサブネット化

IPv4 と同様に、IPv6 アドレスではビットマスクを使用してアドレスの接頭辞をネットワークとして定義します。たとえば、サンプル IP アドレス 2001:db8:88ec:9fb3::1/64/64 ビットマスクを追加すると、最初の 64 ビット (2001:db8:88ec:9fb3) をネットワークとして定義する接頭辞としてビットマスクが動作します。残りのビット (0000:0000:0000:0001) はホストを定義します。

IPv6 は、いくつかの特別なアドレスタイプを使用します。

ループバック
ループバックデバイスは、ホスト内の内部通信に IPv6 を使用します。このデバイスは常に ::1/128 になります。
リンクローカル
リンクローカルアドレスは、特定のネットワークセグメント内で有効な IP アドレスです。IPv6 では、各ネットワークデバイスにリンクローカルアドレスがあり、接頭辞 fe80::/10 を使用する必要があります。ただし、ほとんどの場合、これらのアドレスには fe80::/64 の接頭辞が付けられます。
一意のローカル
一意のローカルアドレスは、ローカル通信用です。これらのアドレスは、fc00::/7 接頭辞を使用します。
マルチキャスト
ホストはマルチキャストアドレスを使用してマルチキャストグループに参加します。これらのアドレスは、ff00::/8 接頭辞を使用します。たとえば、FF02::1 はネットワーク上の全ノードのマルチキャストグループで、FF02::2 はすべてのルーターのマルチキャストグループです。
グローバルユニキャスト
通常、これらのアドレスはパブリック IP アドレス用に予約されます。これらのアドレスは 2000::/3 接頭辞を使用します。