製品ガイド

Red Hat OpenStack Platform 16.0

Red Hat OpenStack Platform の概要

概要

本ガイドは、Red Hat OpenStack Platform 環境の俯瞰的な概要を提供します。

前書き

Red Hat OpenStack Platform (RHOSP) は、Red Hat Enterprise Linux 上にプライベートまたはパブリックの Infrastructure-as-a-Service (IaaS) クラウドを構築するための基盤を提供します。これにより、スケーラビリティーおよび耐障害性に優れたプラットフォームをクラウド対応のワークロード開発にご利用いただくことができます。

第1章 Red Hat OpenStack Platform についての理解

Red Hat OpenStack Platform (RHOSP) は、セキュアで信頼性の高いパブリックまたはプライベートの OpenStack クラウドを作成、デプロイ、スケーリングするための統合された基盤を提供します。

RHOSP は、利用可能な物理ハードウェアからプライベート、パブリック、またはハイブリッドのクラウドプラットフォームを作成できるようにパッケージされています。RHOSP クラウドには、以下のコンポーネントが含まれます。

  • 完全に分散されたオブジェクトストレージ
  • 永続的なブロックレベルのストレージ
  • 仮想マシンのプロビジョニングエンジンおよびイメージストレージ
  • 認証および承認メカニズム
  • 統合されたネットワーク
  • ユーザーおよび管理者がアクセス可能な Web ブラウザーベースのインターフェース

RHOSP IaaS クラウドは、コンピューティング、ストレージ、ネットワークのリソースを制御する連結されたサービスのコレクションにより実装されます。Web ベースのインターフェースでクラウドを管理し、RHOSP リソースを制御、プロビジョニング、および自動化することができます。また、RHOSP のインフラストラクチャーは豊富な API で管理されますが、クラウドのエンドユーザーもこの API を利用することができます。

1.1. Red Hat OpenStack Platform を使用する利点

Red Hat OpenStack Platform を使用することで、要件に応じて仮想化、ネットワーク、およびストレージを統合することができます。以下の機能が、Red Hat OpenStack Platform の利点として挙げられます。

  • 要件に合わせてスケールアップ/スケールダウンできるパブリック、プライベート、またはハイブリッドクラウドを作成することができる。
  • ニーズに合わせてクラウド化されたワークロードをデプロイすることができる。
  • セキュリティーやパフォーマンス、コストを犠牲にせず、週/日単位ではなく、時間/分単位で顧客のニーズに対応することができる。
  • ハイブリッドクラウド管理を使用し、Red Hat CloudForms と連携して監視およびレポートすることで、クラウド環境に安定性および俊敏性を提供することができる。

1.2. RDO と OpenStack Foundation の関係

OpenStack Foundation は、世界全体で OpenStack クラウドオペレーティングシステムを開発、配信、採用しています。OpenStack Foundation の目的は、共有リソースのセットを提供することでパブリックおよびプライベートの OpenStack クラウドのフットプリントを成長させ、技術ベンダーが OpenStack プラットフォームをターゲットにできるようにし、業界一のクラウドソフトウェアを創りだせるように開発者を支援し、世界中の開発者、ユーザー、全体的なエコシステムにサービスを提供することです。

RPM Distribution of OpenStack (RDO) は、無料のコミュニティーサポート版のディストリビューションで、Red Hat Enterprise Linux (RHEL) や CentOS などの派生オペレーティングシステム上で稼働する OpenStack の Red Hat バージョンです。また RDO は Fedora 向けにも最新の OpenStack 開発リリースを提供しています。RDO は、ソフトウェアパッケージのセットを提供する以外に、Red Hat ベースのオペレーティングシステム上でクラウドコンピューティングを使用するユーザーのコミュニティーでもあり、OpenStack を運用する際のサポートや情報交換の場を提供しています。エンタープライズレベルのサポートやパートナー認定についての情報が必要な場合のために、Red Hat では Red Hat OpenStack Platform を提供しています。詳しくは、「Red Hat OpenStack Platform」を参照してください。

第2章 ソフトウェア

Red Hat OpenStack Platform IaaS クラウドは、コンピューティング、ストレージ、ネットワークのリソースを制御する対話サービスのコレクションとして機能します。Web ベースのダッシュボードまたはコマンドラインクライアントを使用してクラウドを管理し、OpenStack リソースの制御、プロビジョニング、自動化を行うことができます。OpenStack は、クラウドの全ユーザーが利用できる豊富な API も提供しています。

以下の図は、OpenStack のコアサービスとそれらの相互関係の俯瞰的な概要を示しています。

OpenStack component relationships

以下の表には、上図に示した各コンポーネントについての簡単な説明と、それぞれのセクションへのリンクをまとめています。

表2.1 コアサービス

 サービスコード説明

One

Dashboard

horizon

OpenStack の各サービスの管理に使用する Web ブラウザーベースのダッシュボード

Two

Identity

keystone

OpenStack サービスを認証および承認し、ユーザー、プロジェクト、およびロールを管理する一元化されたサービス

Three

OpenStack Networking

neutron

OpenStack サービスのインターフェース間の接続性を提供します。

Three

Load-balancing

octavia

クラウドの負荷分散サービスを提供します。

Four

Block Storage

cinder

仮想マシン用の永続的な Block Storage ボリュームを管理します。

Five

Compute

nova

ハイパーバイザーノードで実行されている仮想マシンの管理とプロビジョニングを行います。

Six

Image

glance

仮想マシンイメージやボリュームスナップショットなどのリソースを保管するレジストリーサービス。

Seven

Object Storage

swift

ファイルと任意のデータを保存し、取得します。

Eight

Telemetry

ceilometer

クラウドリソースの計測値を提供します。

Nine

Orchestration

heat

リソーススタックの自動作成をサポートする、テンプレートベースのオーケストレーションエンジン

各 OpenStack サービスには、Linux サービスおよびその他のコンポーネントの機能グループが含まれています。たとえば、MariaDB データベースを使用する glance-api および glance-registry Linux サービスは、Image サービスを実装します。

2.1. コンポーネント

このセクションは、各 OpenStack コンポーネントを詳細にわたり説明しています。

  • OpenStack Dashboard (horizon)

    OpenStack Dashboard は、インスタンスの作成/起動、ネットワークの管理、アクセス制御の設定に使用できるグラフィカルユーザーインターフェースです。

    Dashboard サービスには、プロジェクト、管理、設定のデフォルトダッシュボードが含まれます。また、請求、モニタリング、追加の管理ツールなどの他の製品と対話するためのモジュラー設計があります。

  • OpenStack Identity (keystone)

    OpenStack Identity は、全 OpenStack コンポーネントに対してユーザーの認証と承認を提供します。Identity は、ユーザー名/パスワード認証情報、トークンベースのシステム、AWS 式のログインなど複数の認証メカニズムをサポートしています。

  • OpenStack Networking (neutron)

    OpenStack Networking は、OpenStack クラウド内の仮想ネットワークインフラストラクチャーの作成と管理を処理します。インフラストラクチャー要素にはネットワーク、サブネット、ルーターなどが含まれます。

  • Load-balancing サービス (octavia)

    OpenStack Load-balancing サービス (octavia) は、Red Hat OpenStack Platform director のインストール環境で、Load Balancing-as-a-Service (LBaaS) の実装を提供します。負荷分散機能を実現するために、octavia では複数のプロバイダードライバーを有効にする設定がサポートされます。参照プロバイダードライバー (Amphora プロバイダードライバー) は、オープンソースのスケーラビリティーに優れた高可用性負荷分散プロバイダーです。仮想マシン群(amphora と総称される)を管理し、オンデマンドで起動することで負荷分散サービスを提供します。

  • OpenStack Block Storage (cinder)

    OpenStack Block Storage サービスは、仮想ハードドライブの永続的なブロックストレージ管理機能を提供します。Block Storage を使用してブロックデバイスを作成/削除し、サーバーへのブロックデバイスの接続を管理することができます。

  • OpenStack Compute (nova)

    OpenStack Compute サービスは、オンデマンドで仮想マシンを提供する、OpenStack クラウドの中核です。Compute は、下層の仮想化メカニズムと対話するドライバーを定義し、他の OpenStack コンポーネントに機能を公開することにより、仮想マシンが一式のノード上で実行されるようにスケジュールします。

  • OpenStack Image サービス (glance)

    OpenStack Image は、仮想ディスクイメージのレジストリーとして機能します。ユーザーは、新規イメージを追加したり、既存のサーバーのスナップショットを作成して直ちに保存したりすることができます。スナップショットはバックアップ用、またはサーバーを新規作成するためのテンプレートとして使用できます。

  • OpenStack Object Storage (swift)

    Object Storage サービスは、HTTP 経由でアクセス可能な、大量データ用のストレージシステムを提供します。ビデオ、イメージ、メールのメッセージ、ファイル、仮想マシンイメージなどの静的エンティティーをすべて保管することができます。オブジェクトは、各ファイルの拡張属性に保管されているメタデータとともに、下層のファイルシステムにバイナリーとして保管されます。

  • OpenStack Telemetry (ceilometer)

    OpenStack Telemetry は、OpenStack をベースとするクラウドのユーザーレベルの使用状況データを提供します。データは、顧客の課金、システムの監視、警告に使用することができます。Telemetry は既存の OpenStack コンポーネント (例: Compute の使用イベント) や libvirt などの OpenStack インフラストラクチャーリソースのポーリングにより送信される通知からデータを収集することができます。

  • OpenStack Orchestration (heat)

    OpenStack Orchestration は、ストレージ、ネットワーク、インスタンス、アプリケーションなどのクラウドリソースを作成および管理するためのテンプレートを提供します。このテンプレートを使用して、リソースのコレクションであるスタックを作成します。

  • OpenStack Bare Metal Provisioning (ironic)

    OpenStack Bare Metal Provisioning を使用して、ハードウェア固有のドライバーを使用するさまざまなハードウェアベンダーの製品で物理マシンまたはベアメタルマシンのプロビジョニングを行います。Bare Metal Provisioning は Compute サービスと統合して、仮想マシンのプロビジョニングと同じ方法で、ベアメタルマシンのプロビジョニングを行い、bare-metal-to-trusted-project のユースケースの解決策を提供します。

  • OpenStack Shared-Filesystems-as-a-Service (manila)

    OpenStack Shared File Systems サービスは、コンピュートインスタンスが使用可能な共有ファイルシステムを提供します。Shared File Systems の基本リソースは、共有、スナップショット、共有ネットワークです。

  • OpenStack Key Manager (barbican)

    OpenStack Key Manager サービスは、パスワード、暗号化鍵、X.509 などのシークレットのセキュアなストレージ、プロビジョニング、管理のために設計された REST API です。これには、対称キー、非対称キー、証明書、RAW バイナリーデータなどの鍵マテリアルが含まれます。

  • Red Hat OpenStack Platform director

    Red Hat OpenStack Platform director は、完全な OpenStack 環境のインストールおよび管理を行うためのツールセットです。director は、主に OpenStack プロジェクト TripleO (「OpenStack-On-OpenStack」の略語) をベースとしてます。このプロジェクトは、OpenStack のコンポーネントを活用して、完全に機能する OpenStack 環境をインストールします。これには、OpenStack ノードとして使用するベアメタルシステムのプロビジョニングや制御を行う新たな OpenStack のコンポーネントが含まれます。director により、完全な Red Hat OpenStack Platform 環境を簡単にインストールすることができます。Red Hat OpenStack Platform director は、アンダークラウドとオーバークラウドという 2 つの主要な概念を採用しています。アンダークラウドがオーバークラウドのインストールおよび設定を行います。

  • OpenStack High Availability

    OpenStack の環境が効率的に稼働する状態を維持するには、director を使用して、Red Hat OpenStack Platform の主要な全サービスにわたって高可用性および負荷分散を提供する構成を作成できます。

  • OpenStack Operational Tools

    Red Hat OpenStack Platform には、集中ロギング、可用性の監視、パフォーマンスの監視などのオプションのツールスイートが同梱されています。これらのツールを使用して OpenStack 環境を維持することができます。

2.2. Integration

Red Hat OpenStack Platform は、テスト済みおよび 承認済みのソフトウェアと統合することができます。

2.3. インストールの概要

Red Hat は、以下の手法での Red Hat OpenStack Platform のインストールをサポートします。

  • Red Hat OpenStack Platform director: エンタープライズのデプロイメントに推奨します。詳しくは、『director のインストール と使用方法』 を参照してください。
  • 1 台のマシン: CirrOS イメージインスタンスを 1 台ホストし、ストレージボリュームが接続される 1 台のマシン上でパブリックネットワークとプライベートネットワークから構成されるデプロイメントです。インストールされる OpenStack サービスには Block Storage、Compute、Dashboard、Identity、Image、OpenStack Networking、Object Storage、および Telemetry が含まれます。Hadoop は、Red Hat OpenStack Platform を迅速にデプロイするコマンドラインユーティリティーです。

    注記

    packstack によるデプロイメントは、概念実証タイプのテスト環境を対象としており、実稼動環境には適切ではありません。デフォルトでは、パブリックネットワークは OpenStack ホストからのみルーティング可能です。

    詳しい情報は、「Evaluating OpenStack: Single-Node Deployment」を参照してください。

これらのインストールオプションの比較は、『 Installing and Managing Red Hat OpenStack Platform 』を参照してください。

2.4. サブスクリプション

Red Hat OpenStack Platform をインストールするには、OpenStack 環境にある全システムを Red Hat サブスクリプションマネージャーで登録して、必要なチャンネルをサブスクライブします。下記のガイドに、Red Hat OpenStack Platform のデプロイ前にサブスクライブする必要のあるチャンネルおよびリポジトリーを詳しくまとめています。

第3章 ハードウェア

Red Hat OpenStack Platform は、信頼済みのクラウドプロバイダーでデプロイすることができます。認定済みの製品一覧については、「Tested. Certified. Trusted.」を参照してください。

第4章 その他の参考資料

以下の表には、本ガイドに記載したコンポーネントの参考情報をまとめています。

Red Hat OpenStack Platform の他のガイドについては、「 Product Documentation for Red Hat OpenStack Platform 16.0 」を参照してください。

コンポーネント参考情報

Red Hat Enterprise Linux

Red Hat OpenStack Platform 16.0 は、Red Hat Enterprise Linux 8.1 でサポートされています。Red Hat Enterprise Linux のインストールに関する情報は、「 Product Documentation for Red Hat Enterprise Linux 8 」を参照してください。

Red Hat OpenStack Platform

OpenStack のコンポーネントとそれらの依存関係をインストールするには、Red Hat OpenStack Platform director を使用します。director は基本的な OpenStack アンダークラウドを使用して、最終的なオーバークラウドの OpenStack ノードのプロビジョニングと管理を行います。

アンダークラウドのインストールには、デプロイするオーバークラウドに必要な環境に加えて、追加のホストマシンが 1 台必要となる点に注意してください。詳しくは、『 director のインストールと使用方法』 を参照してください。

高可用性

追加の高可用性コンポーネント(例: HAProxy)の設定については、『 High Availability Deployment and Usage 』ガイドを参照してください。

ライブマイグレーションの設定に関する情報は、『インスタンス &イメージガイド』の「 コンピュートノード間の仮想マシンインスタンスの移行 」を参照し てください。

Octavia

OpenStack Load-balancing サービス (Octavia) は、Red Hat OpenStack Platform director のインストール環境で、Load Balancing-as-a-Service (LBaaS) バージョン 2 の実装を提供します。Load Balancing-as-a-Service を使用するには、『 ネットワークガイド』 の「 Octavia を使用した Load Balancing-as-a-Service(LBaaS) 」を参照してください。

Pacemaker

Pacemaker は Red Hat Enterprise Linux にアドオンとして統合されています。高可用性用の Red Hat Enterprise Linux を設定するには、『高可用性クラスターの設定および管理』を参照してください。