4.6. PostgreSQL の RHEL9 バージョンへの移行
Red Hat Enterprise Linux 8 は、複数のモジュールストリームで PostgreSQL を提供します (PostgreSQL 10 (デフォルトの postgresql ストリーム)、PostgreSQL 9.6、PostgreSQL 12、PostgreSQL 13、および PostgreSQL 15)。RHEL 9 では、PostgreSQL 13 および PostgreSQL 15 を利用できます。
RHEL では、データベースファイルに 2 つの PostgreSQL 移行パスを使用できます。
高速アップグレードメソッドは、ダンプおよび復元のプロセスよりも速くなります。ただし、場合によっては高速アップグレードが機能せず、たとえばアーキテクチャー間のアップグレードなど、ダンプおよび復元プロセスのみを使用できます。
新しいバージョンの PostgreSQL に移行するための前提条件として、すべての PostgreSQL データベースをバックアップします。
データベースをダンプし、SQL ファイルのバックアップを実行することは、ダンプおよび復元プロセスで必要であり、高速アップグレードメソッドとして推奨されます。
新しいバージョンの PostgreSQL に移行する前に、移行する PostgreSQL バージョンと、移行元と移行先のバージョンの間にあるすべて PostgreSQL バージョンの アップストリームの互換性ノート を参照してください。
4.6.1. PostgreSQL 13 と PostgreSQL 15 間の主な違い
PostgreSQL 15 では、以下の後方互換性のない変更が導入されました。
パブリックスキーマのデフォルトパーミッション
パブリックスキーマのデフォルトパーミッションは、PostgreSQL 15 で変更されています。新規に作成されたユーザーは、GRANT ALL ON SCHEMA public TO myuser;
コマンドを使用して、権限を明示的に付与する必要があります。
以下の例は、PostgreSQL 13 以前で動作します。
postgres=# CREATE USER mydbuser; postgres=# \c postgres mydbuser postgres=$ CREATE TABLE mytable (id int);
以下の例は PostgreSQL 15 で動作します。
postgres=# CREATE USER mydbuser; postgres=# GRANT ALL ON SCHEMA public TO mydbuser; postgres=# \c postgres mydbuser postgres=$ CREATE TABLE mytable (id int);
pg_hba.conf
ファイルで mydbuser
アクセスが適切に設定されていることを確認してください。詳細は、PostgreSQL ユーザーの作成 を参照してください。
PQsendQuery()
がパイプラインモードでサポートされなくなる
PostgreSQL 15 以降、libpq
PQsendQuery()
関数はパイプラインモードでサポートされなくなりました。影響を受けるアプリケーションを変更して、代わりに PQsendQueryParams()
関数を使用します。
4.6.2. pg_upgrade ユーティリティーを使用した高速アップグレード
システム管理者は、高速アップグレード方法を使用して最新バージョンの PostgreSQL にアップグレードできます。高速アップグレードを実行するには、バイナリーデータファイルを /var/lib/pgsql/data/
ディレクトリーにコピーし、pg_upgrade
ユーティリティーを使用します。
この方法を使用すると、データを移行できます。
- RHEL 8 バージョンの PostgreSQL 12 から、RHEL 9 バージョンの PostgreSQL 13 へ
- RHEL 8 バージョンの PostgreSQL 13 から、RHEL 9 バージョンの PostgreSQL 13 または PostgreSQL 15へ
- RHEL 8 バージョンの PostgreSQL 15 から、RHEL 9 バージョンの PostgreSQL 15へ
- RHEL 9 バージョンの PostgreSQL 13 から、RHEL 9 バージョンの PostgreSQL 15 へ
以下の手順では、高速アップグレードメソッドを使用して、RHEL 8 バージョンの PostgreSQL 12 から、RHEL 9 バージョンの PostgreSQL 13 への移行方法を説明します。12
以外の postgresql
ストリームからの移行には、以下のいずれかの方法を使用します。
-
RHEL 8 で PostgreSQL サーバーをバージョン 12 に更新し、
pg_upgrade
ユーティリティーを使用して RHEL 9 バージョンの PostgreSQL 13 への高速アップグレードを実行します。 - ダンプおよび復元のアップグレードは、RHEL 8 バージョンの PostgreSQL と、RHEL 9 の PostgreSQL 以降のバージョンとの間に直接使用します。
前提条件
-
アップグレードを実行する前に、PostgreSQL データベースに保存されているすべてのデータのバックアップを作成します。デフォルトでは、すべてのデータは、RHEL 8 および RHEL 9 システムの両方の
/var/lib/pgsql/data/
ディレクトリーに保存されます。
手順
RHEL 9 システムで、
postgresql-server
パッケージおよびpostgresql-upgrade
パッケージをインストールします。# dnf install postgresql-server postgresql-upgrade
必要に応じて、RHEL 8 で PostgreSQL サーバーモジュールを使用していた場合は、それらを 2 つのバージョンで RHEL 9 システムにもインストールし、PostgreSQL 12 (
postgresql-upgrade
パッケージでインストール) および対象バージョンの PostgreSQL 13 (postgresql-server
パッケージでインストール) の両方に対してコンパイルします。サードパーティーの PostgreSQL サーバーモジュールをコンパイルする必要がある場合は、postgresql-devel
パッケージとpostgresql-upgrade-devel
パッケージの両方に対してビルドしてください。以下の項目を確認します。
-
基本設定 - RHEL 9 システムで、サーバーがデフォルトの
/var/lib/pgsql/data
ディレクトリーを使用し、データベースが正しく初期化され、有効になっているかどうかを確認します。さらに、データファイルは、/usr/lib/systemd/system/postgresql.service
ファイルに記載されているパスと同じパスに保存する必要があります。 - PostgreSQL サーバー - システムは複数の PostgreSQL サーバーを実行できます。これらのすべてのサーバーのデータディレクトリーが独立して処理されていることを確認してください。
-
PostgreSQL サーバーモジュール - RHEL 8 で使用されていた PostgreSQL サーバーモジュールも、RHEL 9 システムにインストールされていることを確認してください。プラグインは
/usr/lib64/pgsql/
ディレクトリーにインストールされていることに注意してください。
-
基本設定 - RHEL 9 システムで、サーバーがデフォルトの
データのコピー時に、
postgresql
サービスがソースおよびターゲットのシステムで稼働していないことを確認します。# systemctl stop postgresql.service
-
データベースファイルをソースの場所から RHEL 9 システムの
/var/lib/pgsql/data/
ディレクトリーにコピーします。 PostgreSQL ユーザーで以下のコマンドを実行して、アップグレードプロセスを実行します。
# postgresql-setup --upgrade
これでバックグラウンドで
pg_upgrade
プロセスが開始します。障害が発生すると、
postgresql-setup
は通知のエラーメッセージを提供します。/var/lib/pgsql/data-old
から新規クラスターに、以前の設定をコピーします。高速アップグレードは、新しいデータスタックで以前の設定を再利用せず、設定がゼロから生成されることに注意してください。古い設定と新しい設定を手動で組み合わせたい場合は、データディレクトリーの *.conf ファイルを使用します。
新しい PostgreSQL サーバーを起動します。
# systemctl start postgresql.service
新しいデータベースクラスターを分析します。
PostgreSQL 13 の場合:
su postgres -c '~/analyze_new_cluster.sh'
PostgreSQL 15 の場合:
su postgres -c 'vacuumdb --all --analyze-in-stages'
システムの起動時に、新しい PostgreSQL サーバーを自動的に起動させる場合は、次のコマンドを実行します。
# systemctl enable postgresql.service
4.6.3. ダンプおよび復元のアップグレード
ダンプおよび復元のアップグレードを使用する場合は、すべてのデータベースのコンテンツを SQL ファイルのダンプファイルにダンプする必要があります。ダンプおよび復元のアップグレードは高速なアップグレード方法よりも低速であり、生成された SQL ファイルで手動修正が必要になる場合があります。
この方法を使用して、RHEL 8 バージョンの PostgreSQL から、RHEL 9 の PostgreSQL の同等以降のバージョンにデータを移行できます。
RHEL 8 および RHEL 9 システムでは、PostgreSQL データは、デフォルトで /var/lib/pgsql/data/
ディレクトリーに保存されます。
ダンプおよび復元のアップグレードを実行するには、ユーザーを root
に変更します。
以下の手順では、RHEL 8 デフォルトバージョンの PostgreSQL 10 から、RHEL 9 バージョンの PostgreSQL 13 への移行を説明します。
手順
RHEL 8 システムで PostgreSQL 10 サーバーを起動します。
# systemctl start postgresql.service
RHEL 8 システムで、すべてのデータベースのコンテンツを
pgdump_file.sql
ファイルにダンプします。su - postgres -c "pg_dumpall > ~/pgdump_file.sql"
データベースが正しくダンプされたことを確認します。
su - postgres -c 'less "$HOME/pgdump_file.sql"'
これにより、ダンプされた sql ファイルのパスが
/var/lib/pgsql/pgdump_file.sql
に表示されます。RHEL 9 システムで、
postgresql-server
パッケージをインストールします。# dnf install postgresql-server
必要に応じて、RHEL 8 で PostgreSQL サーバーモジュールを使用していた場合は、RHEL 9 システムにもインストールしてください。サードパーティーの PostgreSQL サーバーモジュールをコンパイルする必要がある場合は、
postgresql-devel
パッケージに対してビルドします。RHEL 9 システムで、新しい PostgreSQL サーバーのデータディレクトリーを初期化します。
# postgresql-setup --initdb
RHEL 9 システムで、
pgdump_file.sql
を PostgreSQL ホームディレクトリーにコピーし、ファイルが正しくコピーされたことを確認します。su - postgres -c 'test -e "$HOME/pgdump_file.sql" && echo exists'
RHEL 8 システムから設定ファイルをコピーします。
su - postgres -c 'ls -1 $PGDATA/*.conf'
コピーされる設定ファイルは、以下のとおりです。
-
/var/lib/pgsql/data/pg_hba.conf
-
/var/lib/pgsql/data/pg_ident.conf
-
/var/lib/pgsql/data/postgresql.conf
-
RHEL 9 システムで、新しい PostgreSQL サーバーを起動します。
# systemctl start postgresql.service
RHEL 9 システムで、ダンプされた sql ファイルからデータをインポートします。
su - postgres -c 'psql -f ~/pgdump_file.sql postgres'