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第10章 systemd によるサービス管理

10.1. systemd の概要

systemd は、Linux オペレーティングシステム用のシステムおよびサービスのマネージャーです。SysV init スクリプトと後方互換するように設計されており、システム起動時のシステムサービスの並行スタートアップや、デーモンのオンデマンドのアクティベーション、依存関係ベースのサービス制御論理などの多くの機能を提供します。Red Hat Enterprise Linux 7 では、systemd は Upstart に代わるデフォルトの init システムです。

systemd は、systemd unit の概念を導入します。これらの unit は 表10.2「systemd のユニットファイルの場所」 にあるディレクトリーの 1 つに置かれる unit 設定ファイルで表示され、システムサービスやリスニングソケット、init システムに関連するその他のオブジェクトに関する情報を要約します。利用可能な systemd unit タイプの完全なリストは、表10.1「利用可能な systemd のユニットタイプ」 を参照してください。

表10.1 利用可能な systemd のユニットタイプ

ユニットのタイプファイルの拡張子詳細

サービスユニット

.service

システムサービス

ターゲットユニット

.target

systemd ユニットのグループ

自動マウントユニット

.automount

ファイルシステムの自動マウントポイント

デバイスユニット

.device

カーネルが認識するデバイスファイル

マウントユニット

.mount

ファイルシステムのマウントポイント

パスユニット

.path

ファイルシステム内のファイルまたはディレクトリー

スコープユニット

.scope

外部作成のプロセス

スライスユニット

.slice

システムプロセスを管理する、階層的に設定されたユニットのグループ

スナップショットユニット

.snapshot

systemd マネージャーの保存状態。

ソケットユニット

.socket

プロセス間の通信ソケット

スワップユニット

.swap

スワップデバイスまたはスワップファイル

タイマーユニット

.timer

systemd タイマー

表10.2 systemd のユニットファイルの場所

ディレクトリー説明

/usr/lib/systemd/system/

インストール済みの RPM パッケージで配布された systemd のユニットファイル。

/run/systemd/system/

ランタイム時に作成された systemd ユニットファイル。このディレクトリーは、インストール済みのサービスのユニットファイルのディレクトリーよりも優先されます。

/etc/systemd/system/

systemctl enable で作成された systemd ユニットファイル、およびサービス拡張向けに追加されたユニットファイル。このディレクトリーは、runtime のユニットファイルのディレクトリーよりも優先されます。

system.conf を使用してデフォルトの systemd 設定の上書き

systemd のデフォルト設定はコンパイル中に定義され、/etc/systemd/system.conf にある systemd 設定ファイルで確認できます。ここに記載されるデフォルトではなく、systemd ユニットでグローバルに選択したデフォルト値を上書きする場合は、このファイルを使用します。

たとえば、タイムアウト制限のデフォルト値 (90 秒) を上書きする場合は、DefaultTimeoutStartSec パラメーターを使用して、上書きする値を秒単位で入力します。

DefaultTimeoutStartSec=required value

例10.21「タイムアウト制限の変更」 も参照してください。

10.1.1. 主な特長

Red Hat Enterprise Linux 7 では、systemd システムおよびサービスマネージャーは以下の主要な機能を提供します。

  • ソケットベースのアクティベーション: 起動時に systemd は、このタイプのアクティベーションをサポートするすべてのシステムサービス用のリスニングソケットを作成し、サービスが開始するとすぐにこれらのソケットをサービスに渡します。これで systemd がサービスを並行で開始できるだけでなく、サービスが利用可能でない間に送信されたメッセージを失うことなくサービスの再起動が可能になります。これは、対応するソケットがアクセス可能なままで、すべてのメッセージがキューに登録されるためです。

    systemd は、ソケットベースの有効化にソケットユニットを使用します。

  • バスベースのアクティベーション: プロセス間の通信に D-Bus を使用するシステムサービスは、クライアントアプリケーションがシステムサービスとの通信を初めて試みる時にオンデマンドで開始します。systemd は、バスベースのアクティベーションにD-Bus service files を使用します。
  • デバイスベースのアクティベーション: デバイスベースのアクティベーションをサポートするシステムサービスは、特定のタイプのハードウェアがプラグインするか利用可能になると、オンデマンドで開始できます。systemd は、デバイスベースのアクティベーションに、デバイスユニットを使用します。
  • パスベースのアクティベーション: パスベースのアクティベーションをサポートするシステムサービスは、特定のファイルまたはディレクトリーのステータスが変更になると、オンデマンドで開始できます。systemd は、パスベースのアクティベーションに パスユニット を使用します。
  • マウントおよび自動マウントポイント管理: systemd は、マウントポイントおよび自動マウントポイントを監視および管理します。systemd は、マウントポイントにマウントユニットを使用し、自動マウントポイントに自動マウントユニットを使用します。
  • アグレッシブな並列化: ソケットベースのアクティベーションを使用するため、systemd はすべてのリスニングソケットが配置されると同時に並行してシステムサービスを開始できます。並列アクティベーションは、オンデマンドのアクティベーションをサポートするシステムサービスと組み合わせることで、システムの起動に必要な時間を大幅に短縮します。
  • トランザクション unit アクティベーション論理: unit のアクティブ化または非アクティブ化の前に、systemd はその依存関係を計算して一時的なトランザクションを作成し、このトランザクションの一貫性を検証します。トランザクションに一貫性がない場合、systemd は自動的にこれを正そうとし、エラーをレポートする前に必須ではないジョブを削除しようと試みます。
  • SysV init との後方互換性: Linux Standard Base Core Specification にあるように、systemd は SysV init スクリプトに対応しています。これにより、systemd サービスのユニットへのアップグレードが容易になります。

10.1.2. 互換性の変更点

systemd システムおよびサービスマネージャーは、その大部分が SysV init および Upstart と互換性があるように設計されています。以下では、Red Hat Enterprise Linux システムの以前のメジャーリリースとの比較で最も顕著な互換性の変更点を挙げています。

  • systemd のランレベルのサポートは限定的なものです。ランレベルに直接マッピング可能なターゲットユニットを数多く提供し、互換性のために以前の runlevel コマンドで配布されます。ただし、systemd ターゲットのすべてがランレベルに直接マッピングできるわけではないため、このコマンドが不明なランレベルを示す N を返す場合もあります。可能な場合は、runlevel コマンドの使用を避けることが推奨されます。

    systemd ターゲットの詳細と、ランレベルとの比較は、「systemd ターゲットでの作業」を参照してください。

  • systemctl ユーティリティーは、カスタマイズされたコマンドをサポートしません。SysV init スクリプトでは、startstopstatus といった標準のコマンドのほかに、任意のコマンドを実装して多くの機能を提供できます。たとえば、Red Hat Enterprise Linux 6 の iptables の init スクリプトは、panic コマンドで実行できます。これにより、パニックモードが即座に有効になり、システムを再設定して受信パケットおよび送信パケットをすべて切断します。これは systemd ではサポートされておらず、systemctl は文書化されたコマンドのみ受け付けます。

    systemctl ユーティリティー、および以前の service ユーティリティーとの比較は、「システムサービスの管理」 を参照してください。

  • systemctl ユーティリティーは、systemd が開始していないサービスとは通信しません。systemd がシステムサービスを開始すると、メインプロセスの ID を保存して、メインプロセスを追跡します。すると、systemctl ユーティリティーがこの PID を使用してクエリーを行い、サービスを管理します。このため、ユーザーがコマンドラインで特定のデーモンを直接開始すると、systemctl がそのデーモンの最新の状態を判断したり、停止したりすることができません。
  • systemd が停止するのは、実行中のサービスのみです。Red Hat Enterprise Linux 6 以前のリリースでは、シャットダウンシーケンスが開始すると、/etc/rc0.d/ ディレクトリーにあるシンボリックリンクを使用して、利用可能なシステムサービスをそのステータスに関係なくすべて停止していました。systemd では、実行中のサービスだけを、シャットダウン時に停止します。
  • システムサービスは、標準の入力ストリームからは読み取れません。systemd がサービスを開始すると、標準入力を /dev/null に接続し、ユーザーとの対話を行わないようにします。
  • システムサービスは、呼び出したユーザーやそのセッションから、(環境変数 HOMEPATH などの) コンテキストを継承しません。各サービスは、クリーンな実行コンテキストで実行します。
  • SysV init スクリプトを読み込む際に、systemd は Linux Standard Base (LSB) ヘッダーにエンコードされている依存関係情報を読み取り、ランタイム時に解釈します。
  • サービスユニット上のすべての操作は、デフォルトで 5 分でタイムアウトになるように設定されており、サービスの故障でシステムがフリーズすることを防ぎます。この値は initscript から生成されるサービス用にハードコーディングされ、変更することができません。ただし、個別の設定ファイルを使用して、サービスごとにタイムアウト値を長くすることができます。例10.21「タイムアウト制限の変更」 を参照してください。

systemd で導入された互換性の変更点に関する詳細なリストは、Red Hat Enterprise Linux 7 の 移行計画ガイド を参照してください。