1.4. Horizontal Pod Autoscaler での Pod の自動スケーリング

開発者として、Horizontal Pod Autoscaler (HPA) を使って、レプリケーションコントローラーに属する Pod から収集されるメトリクスまたはデプロイメント設定に基づき、OpenShift Container Platform がレプリケーションコントローラーまたはデプロイメント設定のスケールを自動的に増減する方法を指定できます。

1.4.1. Horizontal Pod Autoscaler について

Horizontal Pod Autoscaler を作成することで、実行する Pod の最小数と最大数を指定するだけでなく、Pod がターゲットに設定する CPU の使用率またはメモリー使用率を指定することができます。

重要

メモリー使用率の自動スケーリングはテクノロジープレビュー機能のみとして提供されています。

Horizontal Pod Autoscaler を作成すると、OpenShift Container Platform は Pod で CPU またはメモリーリソースのメトリクスのクエリーを開始します。メトリクスが利用可能になると、Horizontal Pod Autoscaler は必要なメトリクスの使用率に対する現在のメトリクスの使用率の割合を計算し、随時スケールアップまたはスケールダウンを実行します。クエリーとスケーリングは一定間隔で実行されますが、メトリクスが利用可能になるでに 1 分から 2 分の時間がかかる場合があります。

レプリケーションコントローラーの場合、このスケーリングはレプリケーションコントローラーのレプリカに直接対応します。デプロイメント設定の場合、スケーリングはデプロイメント設定のレプリカ数に直接対応します。自動スケーリングは Complete フェーズの最新デプロイメントにのみ適用されることに注意してください。

OpenShift Container Platform はリソースに自動的に対応し、起動時などのリソースの使用が急増した場合など必要のない自動スケーリングを防ぎます。unready 状態の Pod には、スケールアップ時の使用率が 0 CPU と指定され、Autoscaler はスケールダウン時にはこれらの Pod を無視します。既知のメトリクスのない Pod にはスケールアップ時の使用率が 0% CPU、スケールダウン時に 100% CPU となります。これにより、HPA の決定時に安定性が増します。この機能を使用するには、readiness チェックを設定して新規 Pod が使用可能であるかどうかを判別します。

Horizontal Pod Autoscaler を使用するには、クラスターの管理者はクラスターメトリクスを適切に設定している必要があります。

1.4.1.1. サポートされるメトリクス

以下のメトリクスは Horizontal Pod Autoscaler でサポートされています。

表1.1 メトリクス

メトリクス説明API バージョン

CPU の使用率

使用されている CPU コアの数。Pod の要求される CPU の割合の計算に使用されます。

autoscaling/v1autoscaling/v2beta2

メモリーの使用率

使用されているメモリーの量。Pod の要求されるメモリーの割合の計算に使用されます。

autoscaling/v2beta2

重要

メモリーベースの自動スケーリングでは、メモリー使用量がレプリカ数と比例して増減する必要があります。平均的には以下のようになります。

  • レプリカ数が増えると、Pod ごとのメモリー (作業セット) の使用量が全体的に減少します。
  • レプリカ数が減ると、Pod ごとのメモリー使用量が全体的に増加します。

OpenShift Container Platform Web コンソールを使用して、アプリケーションのメモリー動作を確認し、メモリーベースの自動スケーリングを使用する前にアプリケーションがそれらの要件を満たしていることを確認します。

1.4.1.2. スケーリングポリシー

autoscaling/v2beta2 API を使用すると、スケーリングポリシー を Horizontal Pod Autoscaler に追加できます。スケーリングポリシーは、OpenShift Container Platform の Horizontal Pod Autoscaler (HPA) が Pod をスケーリングする方法を制御します。スケーリングポリシーにより、特定の期間にスケーリングするように特定の数または特定のパーセンテージを設定して、HPA が Pod をスケールアップまたはスケールダウンするレートを制限できます。固定化ウィンドウ (stabilization window) を定義することもできます。これはメトリクスが変動する場合に、先に計算される必要な状態を使用してスケーリングを制御します。同じスケーリングの方向に複数のポリシーを作成し、変更の量に応じて使用するポリシーを判別することができます。タイミングが調整された反復によりスケーリングを制限することもできます。HPA は反復時に Pod をスケーリングし、その後の反復で必要に応じてスケーリングを実行します。

スケーリングポリシーを適用するサンプル HPA オブジェクト

apiVersion: autoscaling/v2beta2
kind: HorizontalPodAutoscaler
metadata:
  name: hpa-resource-metrics-memory
  namespace: default
spec:
  behavior:
    scaleDown: 1
      policies: 2
      - type: Pods 3
        value: 4 4
        periodSeconds: 60 5
      - type: Percent
        value: 10 6
        periodSeconds: 60
      selectPolicy: Min 7
      stabilizationWindowSeconds: 300 8
    scaleUp: 9
      policies:
      - type: Pods
        value: 5 10
        periodSeconds: 70
      - type: Percent
        value: 12 11
        periodSeconds: 80
      selectPolicy: Max
      stabilizationWindowSeconds: 0
...

1
scaleDown または scaleUp のいずれかのスケーリングポリシーの方向を指定します。この例では、スケールダウンのポリシーを作成します。
2
スケーリングポリシーを定義します。
3
ポリシーが反復時に特定の Pod の数または Pod のパーセンテージに基づいてスケーリングするかどうかを決定します。デフォルト値は pods です。
4
反復ごとに Pod の数または Pod のパーセンテージのいずれかでスケーリングの量を決定します。Pod 数でスケールダウンする際のデフォルト値はありません。
5
スケーリングの反復の長さを決定します。デフォルト値は 15 秒です。
6
パーセンテージでのスケールダウンのデフォルト値は 100% です。
7
複数のポリシーが定義されている場合は、最初に使用するポリシーを決定します。最大限の変更を許可するポリシーを使用するように Max を指定するか、最小限の変更を許可するポリシーを使用するように Min を指定するか、または HPA がポリシーの方向でスケーリングしないように Disabled を指定します。デフォルト値は Max です。
8
HPA が必要とされる状態で遡る期間を決定します。デフォルト値は 0 です。
9
この例では、スケールアップのポリシーを作成します。
10
Pod 数によるスケールアップの量。Pod 数をスケールアップするためのデフォルト値は 4% です。
11
Pod のパーセンテージによるスケールアップの量。パーセンテージでスケールアップするためのデフォルト値は 100% です。

スケールダウンポリシーの例

apiVersion: autoscaling/v2beta2
kind: HorizontalPodAutoscaler
metadata:
  name: hpa-resource-metrics-memory
  namespace: default
spec:
...
  minReplicas: 20
...
  behavior:
    scaleDown:
      stabilizationWindowSeconds: 300
      policies:
      - type: Pods
        value: 4
        periodSeconds: 30
      - type: Percent
        value: 10
        periodSeconds: 60
      selectPolicy: Max
    scaleUp:
      selectPolicy: Disabled

この例では、Pod の数が 40 より大きい場合、パーセントベースのポリシーがスケールダウンに使用されます。このポリシーでは、 selectPolicy による要求により、より大きな変更が生じるためです。

80 の Pod レプリカがある場合、初回の反復で HPA は Pod を 8 Pod 減らします。これは、1 分間 (periodSeconds: 60) の (type: Percent および value: 10 パラメーターに基づく) 80 Pod の 10% に相当します。次回の反復では、Pod 数は 72 になります。HPA は、残りの Pod の 10% が 7.2 であると計算し、これを 8 に丸め、8 Pod をスケールダウンします。後続の反復ごとに、スケーリングされる Pod 数は残りの Pod 数に基づいて再計算されます。Pod の数が 40 未満の場合、Pod ベースの数がパーセントベースの数よりも大きくなるため、Pod ベースのポリシーが適用されます。HPA は、残りのレプリカ (minReplicas) が 20 になるまで、30 秒 (periodSeconds: 30) で一度に 4 Pod (type: Pods および value: 4) を減らします。

selectPolicy: Disabled パラメーターは HPA による Pod のスケールアップを防ぎます。必要な場合は、レプリカセットまたはデプロイメントセットでレプリカの数を調整して手動でスケールアップできます。

設定されている場合、oc edit コマンドを使用してスケーリングポリシーを表示できます。

$ oc edit hpa hpa-resource-metrics-memory

出力例

apiVersion: autoscaling/v1
kind: HorizontalPodAutoscaler
metadata:
  annotations:
    autoscaling.alpha.kubernetes.io/behavior:\
'{"ScaleUp":{"StabilizationWindowSeconds":0,"SelectPolicy":"Max","Policies":[{"Type":"Pods","Value":4,"PeriodSeconds":15},{"Type":"Percent","Value":100,"PeriodSeconds":15}]},\
"ScaleDown":{"StabilizationWindowSeconds":300,"SelectPolicy":"Min","Policies":[{"Type":"Pods","Value":4,"PeriodSeconds":60},{"Type":"Percent","Value":10,"PeriodSeconds":60}]}}'
...