12.3. Helm ベース Operator の作成

以下では、Operator SDK での Helm チャートのサポートについての概要を説明し、Operator 作成者を対象に、既存の Helm チャートを使用する operator-sdk CLI ツールで Nginx Operator をビルドし、実行する例を示します。

12.3.1. Operator SDK での Helm チャートのサポート

Operator FrameworkOperator という Kubernetes ネイティブアプリケーションを効果的かつ自動化された拡張性のある方法で管理するためのオープンソースツールキットです。このフレームワークには Operator SDK が含まれ、これは Kubernetes API の複雑性を把握していなくても、それぞれの専門知識に基づいて Operator のブートストラップおよびビルドを実行できるように開発者を支援します。

Operator プロジェクトを生成するための Operator SDK のオプションの 1 つとして、Go コードを作成せずに既存の Helm チャートを使用して Kubernetes リソースを統一されたアプリケーションとしてデプロイするオプションがあります。このような Helm ベースの Operator では、変更はチャートの一部として生成される Kubernetes オブジェクトに適用されるため、ロールアウト時にロジックをほとんど必要としないステートレスなアプリケーションを使用する際に適しています。いくらか制限があるような印象を与えるかもしれませんが、Kubernetes コミュニティーがビルドする Helm チャートが急速に増加していることからも分かるように、この Operator は数多くのユーザーケースに対応することができます。

Operator の主な機能として、アプリケーションインスタンスを表すカスタムオブジェクトから読み取り、必要な状態を実行されている内容に一致させることができます。Helm ベース Operator の場合、オブジェクトの仕様フィールドは、通常 Helm の values.yaml ファイルに記述される設定オプションの一覧です。Helm CLI を使用してフラグ付きの値を設定する代わりに (例: helm install -f values.yaml)、これらをカスタムリソース (CR) 内で表現することができます。 これにより、ネイティブ Kubernetes オブジェクトとして、適用される RBAC および監査証跡の利点を活用できます。

Tomcat という単純な CR の例:

apiVersion: apache.org/v1alpha1
kind: Tomcat
metadata:
  name: example-app
spec:
  replicaCount: 2

この場合の replicaCount 値、2 は以下が使用されるチャートのテンプレートに伝播されます。

{{ .Values.replicaCount }}

Operator のビルドおよびデプロイ後に、CR の新規インスタンスを作成してアプリケーションの新規インスタンスをデプロイしたり、 oc コマンドを使用してすべての環境で実行される異なるインスタンスを一覧表示したりすることができます。

$ oc get Tomcats --all-namespaces

Helm CLI を使用したり、Tiller をインストールしたりする必要はありません。Helm ベースの Operator はコードを Helm プロジェクトからインポートします。Operator のインスタンスを実行状態にし、カスタムリソース定義 (CRD) に CR を登録することのみが必要になります。 さらにこれは RBAC に準拠するため、実稼働環境の変更を簡単に防止することができます。

12.3.2. Operator SDK CLI のインストール

Operator SDK には、開発者による新規 Operator プロジェクトの作成、ビルドおよびデプロイを支援をする CLI ツールが含まれます。ワークステーションに SDK CLI をインストールして、独自の Operator のオーサリングを開始することができます。

注記

以下では、ローカル Kubernetes クラスターとしての minikube v0.25.0+ とパブリックレジストリーの quay.io を使用します。

12.3.2.1. GitHub リリースからのインストール

GitHub のプロジェクトから SDK CLI の事前ビルドリリースのバイナリーをダウンロードし、インストールできます。

前提条件

  • Go v1.13+
  • docker v17.03+、podman v1.2.0+、または buildah v1.7+
  • OpenShift CLI (oc) v4.3+ (インストール済み)
  • Kubernetes v1.12.0+ に基づくクラスターへのアクセス
  • コンテナーレジストリーへのアクセス

手順

  1. リリースバージョン変数を設定します。

    RELEASE_VERSION=v0.12.0
  2. リリースバイナリーをダウンロードします。

    • Linux の場合

      $ curl -OJL https://github.com/operator-framework/operator-sdk/releases/download/${RELEASE_VERSION}/operator-sdk-${RELEASE_VERSION}-x86_64-linux-gnu
    • MacOS の場合

      $ curl -OJL https://github.com/operator-framework/operator-sdk/releases/download/${RELEASE_VERSION}/operator-sdk-${RELEASE_VERSION}-x86_64-apple-darwin
  3. ダウンロードしたリリースのバイナリーを確認します。

    1. 提供された ASC ファイルをダウンロードします。

      • Linux の場合

        $ curl -OJL https://github.com/operator-framework/operator-sdk/releases/download/${RELEASE_VERSION}/operator-sdk-${RELEASE_VERSION}-x86_64-linux-gnu.asc
      • MacOS の場合

        $ curl -OJL https://github.com/operator-framework/operator-sdk/releases/download/${RELEASE_VERSION}/operator-sdk-${RELEASE_VERSION}-x86_64-apple-darwin.asc
    2. バイナリーと対応する ASC ファイルを同じディレクトリーに置き、以下のコマンドを実行してバイナリーを確認します。

      • Linux の場合

        $ gpg --verify operator-sdk-${RELEASE_VERSION}-x86_64-linux-gnu.asc
      • MacOS の場合

        $ gpg --verify operator-sdk-${RELEASE_VERSION}-x86_64-apple-darwin.asc

      保守管理者の公開キーがワークステーションにない場合は、以下のエラーが出されます。

      $ gpg --verify operator-sdk-${RELEASE_VERSION}-x86_64-apple-darwin.asc
      $ gpg: assuming signed data in 'operator-sdk-${RELEASE_VERSION}-x86_64-apple-darwin'
      $ gpg: Signature made Fri Apr  5 20:03:22 2019 CEST
      $ gpg:                using RSA key <key_id> 1
      $ gpg: Can't check signature: No public key
      1
      RSA キー文字列。

      キーをダウンロードするには、以下のコマンドを実行し、 <key_id> を直前のコマンドの出力で提供された RSA キー文字列に置き換えます。

      $ gpg [--keyserver keys.gnupg.net] --recv-key "<key_id>" 1
      1
      キーサーバーが設定されていない場合、これを --keyserver オプションで指定します。
  4. リリースバイナリーを PATH にインストールします。

    • Linux の場合

      $ chmod +x operator-sdk-${RELEASE_VERSION}-x86_64-linux-gnu
      $ sudo cp operator-sdk-${RELEASE_VERSION}-x86_64-linux-gnu /usr/local/bin/operator-sdk
      $ rm operator-sdk-${RELEASE_VERSION}-x86_64-linux-gnu
    • MacOS の場合

      $ chmod +x operator-sdk-${RELEASE_VERSION}-x86_64-apple-darwin
      $ sudo cp operator-sdk-${RELEASE_VERSION}-x86_64-apple-darwin /usr/local/bin/operator-sdk
      $ rm operator-sdk-${RELEASE_VERSION}-x86_64-apple-darwin
  5. CLI ツールが正しくインストールされていることを確認します。

    $ operator-sdk version

12.3.2.2. Homebrew からのインストール

Homebrew を使用して SDK CLI をインストールできます。

前提条件

  • Homebrew
  • docker v17.03+、podman v1.2.0+、または buildah v1.7+
  • OpenShift CLI (oc) v4.3+ (インストール済み)
  • Kubernetes v1.12.0+ に基づくクラスターへのアクセス
  • コンテナーレジストリーへのアクセス

手順

  1. brew コマンドを使用して SDK CLI をインストールします。

    $ brew install operator-sdk
  2. CLI ツールが正しくインストールされていることを確認します。

    $ operator-sdk version

12.3.2.3. ソースを使用したコンパイルおよびインストール

Operator SDK ソースコードを取得して、SDK CLI をコンパイルし、インストールできます。

前提条件

  • Git
  • Go v1.13+
  • docker v17.03+、podman v1.2.0+、または buildah v1.7+
  • OpenShift CLI (oc) v4.3+ (インストール済み)
  • Kubernetes v1.12.0+ に基づくクラスターへのアクセス
  • コンテナーレジストリーへのアクセス

手順

  1. operator-sdk リポジトリーのクローンを作成します。

    $ mkdir -p $GOPATH/src/github.com/operator-framework
    $ cd $GOPATH/src/github.com/operator-framework
    $ git clone https://github.com/operator-framework/operator-sdk
    $ cd operator-sdk
  2. 必要なリリースブランチをチェックアウトします。

    $ git checkout master
  3. SDK CLI ツールをコンパイルし、インストールします。

    $ make dep
    $ make install

    これにより、$GOPATH/bin に CLI バイナリー operator-sdk がインストールされます。

  4. CLI ツールが正しくインストールされていることを確認します。

    $ operator-sdk version

12.3.3. Operator SDK を使用した Helm ベースの Operator のビルド

以下の手順では、Operator SDK が提供するツールおよびライブラリーを使用して Helm チャートがサポートする単純な Nginx Operator のビルドの例について説明します。

ヒント

各チャートについて新規 Operator をビルドすることは最も効果的な方法と言えます。これにより、Hem ベースの Operator から移行して Go で完全装備の Operator を作成する場合などに、さらに多くのネイティブ動作をする Kubernetes API (例: oc get Nginx) の使用および柔軟性が可能になります。

前提条件

  • 開発ワークステーションにインストールされる Operator SDK CLI
  • cluster-admin パーミッションを持つアカウントを使用した Kubernetes ベースのクラスターr v1.11.3+ (OpenShift Container Platform 4.3 など) へのアクセス
  • OpenShift CLI (oc) v4.1+ (インストール済み)

手順

  1. 新規 Operator プロジェクトを作成します。namespace スコープの Operator は単一 namespace でリソースを監視し、管理します。namespace スコープの Operator は柔軟性があるために優先して使用されます。これらの Operator は切り離されたアップグレード、障害対応およびモニタリングのための namespace の分離、および API 定義の差異化を可能にします。

    新規の Helm ベース、namespace スコープの nginx-operator プロジェクトを作成するには、以下のコマンドを使用します。

    $ operator-sdk new nginx-operator \
      --api-version=example.com/v1alpha1 \
      --kind=Nginx \
      --type=helm
    $ cd nginx-operator

    これにより、とりわけ APIVersion example.com/v1apha1 および Kind Nginx の Nginx リソースを監視する目的で nginx-operator プロジェクトが作成されます。

  2. Operator ロジックをカスタマイズします

    この例では、nginx-operator はそれぞれの Nginx カスタムリソース (CR) について以下の調整 (reconciliation) ロジックを実行します。

    • Nginx デプロイメントを作成します (ない場合)。
    • Nginx サービスを作成します (ない場合)。
    • Nginx Ingress を作成します (有効にされているが存在しない場合)。
    • Deployment、Service、およびオプションの Ingress が Nginx CR で指定される必要な設定 (レプリカ数、イメージ、サービスタイプなど) に一致することを確認します。

    デフォルトで、nginx-operatorwatches.yaml ファイルに示されるように Nginx リソースイベントを監視し、指定されたチャートを使用して Helm リリースを実行します。

    - version: v1alpha1
      group: example.com
      kind: Nginx
      chart: /opt/helm/helm-charts/nginx
    1. Nginx Helm チャートを確認します

      Helm Operator プロジェクトの作成時に、Operator SDK は、単純な Nginx リリース用のテンプレートセットが含まれる Helm チャートのサンプルを作成します。

      この例では、Helm チャート開発者がリリースについての役立つ情報を伝えるために使用する NOTES.txt テンプレートと共に、Deployment、Service、および Ingress リソース用にテンプレートを利用できます。

      Helm チャートの使用に慣れていない場合は、Helm Chart 開発者用のドキュメントを参照してください。

    2. Nginx CR 仕様を確認します

      Helm は値 (value) という概念を使用して、Helm チャートの values.yaml ファイルに定義される Helm チャートのデフォルトをカスタマイズします。

      CR 仕様に必要な値を設定し、これらのデフォルトを上書きします。例としてレプリカ数を使用することができます。

      1. まず、helm-charts/nginx/values.yaml ファイルで、チャートに replicaCount という値が含まれ、これがデフォルトで 1 に設定されていることを検査します。デプロイメントに 2 つの Nginx インスタンスを設定するには、CR 仕様に replicaCount: 2 が含まれる必要があります。

        deploy/crds/example.com_v1alpha1_nginx_cr.yaml ファイルを以下のように更新します。

        apiVersion: example.com/v1alpha1
        kind: Nginx
        metadata:
          name: example-nginx
        spec:
          replicaCount: 2
      2. 同様に、デフォルトのサービスポートは 80 に設定されます。8080 を代わりに使用するには、サービスポートの上書きを追加して deploy/crds/example.com_v1alpha1_nginx_cr.yaml ファイルを再度更新します。

        apiVersion: example.com/v1alpha1
        kind: Nginx
        metadata:
          name: example-nginx
        spec:
          replicaCount: 2
          service:
            port: 8080

        Helm Operator は、helm install -f ./overrides.yaml コマンドが機能するように、仕様全体を values ファイルの内容のように適用します。

  3. CRD をデプロイします

    Operator の実行前に、Kubernetes は Operator が監視する新規カスタムリソース定義 (CRD) について把握している必要があります。以下の CRD をデプロイします。

    $ oc create -f deploy/crds/example_v1alpha1_nginx_crd.yaml
  4. Operator をビルドし、実行します

    Operator をビルドし、実行する方法として 2 つの方法を使用できます。

    • Kubernetes クラスター内の Pod を使用
    • operator-sdk up コマンドを使用してクラスター外で Go プログラムを使用

    以下の方法のいずれかを選択します。

    1. Kubernetes クラスター内で Pod として実行 します。これは実稼働環境での優先される方法です。

      1. nginx-operator イメージをビルドし、これをレジストリーにプッシュします。

        $ operator-sdk build quay.io/example/nginx-operator:v0.0.1
        $ podman push quay.io/example/nginx-operator:v0.0.1
      2. Deployment マニフェストは deploy/operator.yaml ファイルに生成されます。このファイルの Deployment イメージは、プレースホルダー REPLACE_IMAGE から直前にビルドされたイメージに変更される必要があります。これを実行するには、以下を実行します。

        $ sed -i 's|REPLACE_IMAGE|quay.io/example/nginx-operator:v0.0.1|g' deploy/operator.yaml
      3. nginx-operator をデプロイします。

        $ oc create -f deploy/service_account.yaml
        $ oc create -f deploy/role.yaml
        $ oc create -f deploy/role_binding.yaml
        $ oc create -f deploy/operator.yaml
      4. nginx-operator が稼働していることを確認します。

        $ oc get deployment
        NAME                 DESIRED   CURRENT   UP-TO-DATE   AVAILABLE   AGE
        nginx-operator       1         1         1            1           1m
    2. クラスター外で実行します。この方法は、デプロイメントおよびテストの速度を上げるために開発サイクル時に優先される方法です。

      watches.yaml ファイルで参照されるチャートパスがマシン上に存在している必要があります。デフォルトで、 watches.yaml ファイルは operator-sdk build コマンドでビルドされるOperator イメージを使用できるようにスキャフォールディングされます。Operator を operator-sdk up local コマンドで開発し、テストする場合、SDK はローカルファイルシステムでこのパスを検索します。

      1. この場所に、Helm チャートのパスを参照するシンボリックリンクを作成します。

        $ sudo mkdir -p /opt/helm/helm-charts
        $ sudo ln -s $PWD/helm-charts/nginx /opt/helm/helm-charts/nginx
      2. $HOME/.kube/config にあるデフォルトの Kubernetes 設定ファイルを使って Operator をローカルに実行するには、以下を実行します。

        $ operator-sdk up local

        提供された Kubernetes 設定ファイルを使って Operator をローカルに実行するには、以下を実行します。

        $ operator-sdk up local --kubeconfig=<path_to_config>
  5. Nginx CR をデプロイします

    これまでに変更した Nginx CR を適用します。

    $ oc apply -f deploy/crds/example.com_v1alpha1_nginx_cr.yaml

    nginx-operator が CR の Deployment を作成することを確認します。

    $ oc get deployment
    NAME                                           DESIRED   CURRENT   UP-TO-DATE   AVAILABLE   AGE
    example-nginx-b9phnoz9spckcrua7ihrbkrt1        2         2         2            2           1m

    Pod で 2 つのレプリカが作成されていることを確認します。

    $ oc get pods
    NAME                                                      READY     STATUS    RESTARTS   AGE
    example-nginx-b9phnoz9spckcrua7ihrbkrt1-f8f9c875d-fjcr9   1/1       Running   0          1m
    example-nginx-b9phnoz9spckcrua7ihrbkrt1-f8f9c875d-ljbzl   1/1       Running   0          1m

    サービスポートが 8080 に設定されていることを確認します。

    $ oc get service
    NAME                                      TYPE        CLUSTER-IP   EXTERNAL-IP   PORT(S)    AGE
    example-nginx-b9phnoz9spckcrua7ihrbkrt1   ClusterIP   10.96.26.3   <none>        8080/TCP   1m
  6. replicaCount を更新し、ポートを削除します

    spec.replicaCount フィールドを 2 から 3 に変更し、spec.service フィールドを削除して、変更を適用します。

    $ cat deploy/crds/example.com_v1alpha1_nginx_cr.yaml
    apiVersion: "example.com/v1alpha1"
    kind: "Nginx"
    metadata:
      name: "example-nginx"
    spec:
      replicaCount: 3
    
    $ oc apply -f deploy/crds/example.com_v1alpha1_nginx_cr.yaml

    Operator が Deployment サイズを変更することを確認します。

    $ oc get deployment
    NAME                                           DESIRED   CURRENT   UP-TO-DATE   AVAILABLE   AGE
    example-nginx-b9phnoz9spckcrua7ihrbkrt1        3         3         3            3           1m

    サービスポートがデフォルトの 80 に設定されていることを確認します。

    $ oc get service
    NAME                                      TYPE        CLUSTER-IP   EXTERNAL-IP   PORT(S)  AGE
    example-nginx-b9phnoz9spckcrua7ihrbkrt1   ClusterIP   10.96.26.3   <none>        80/TCP   1m
  7. リソースをクリーンアップします

    $ oc delete -f deploy/crds/example.com_v1alpha1_nginx_cr.yaml
    $ oc delete -f deploy/operator.yaml
    $ oc delete -f deploy/role_binding.yaml
    $ oc delete -f deploy/role.yaml
    $ oc delete -f deploy/service_account.yaml
    $ oc delete -f deploy/crds/example_v1alpha1_nginx_crd.yaml

12.3.4. 追加リソース